『攻殻機動隊ARISE』シリーズの完結作となるborder:4が9月6日にいよいよ上映をスタートする。
最終章『border:4 Ghost Stands Alone』では、国外カルテルの利権を巡る水の価格協定への抗議デモの最中に起きた、同時ゴーストハックによる機動隊の無差別発砲事件をきっかけに、“ブリキの少女”ツダ・エマと“カカシの男”ブリンダジュニアのダブルゴーストの謎、そして彼らが目指すものが何なのか、隠された陰謀の真相に迫る物語だ。
このインタビューでは、脚本・シリーズ構成を担当する冲方丁さん、総監督・キャラクターデザイン の黄瀬和哉さんに誰も見たことのない“新しい草薙素子”誕生の裏側やborder:3までの振り返り、最終章を迎えての心境についてお話いただいた。
[取材・構成=川俣綾加]
■ なぜ、結成前夜を描いたのか?
―アニメ!アニメ!(以下、AA)
『攻殻機動隊ARISE』もとうとう完結となりますが、border:4まで一緒に作品を作ってみてお互いにいかがでしたか? 長年作品に携わってきた黄瀬さんと、今回が初の冲方さんと真逆のおふたりですが。
―冲方丁さん(以下、冲方)
そういう意味では本当に真逆ですね。
―黄瀬和哉さん(以下、黄瀬)
僕自身は監督の経験があまり無いので、2人とも同じようなキャリアですよ。
―冲方
いやいや(笑)、黄瀬さんがいなかったらたぶん『攻殻機動隊ARISE』はできてないですよ。最初のほうは本当に迷走してたので。
―AA
まずは何からするか、というところでなかなか決着がつかなかったのでしょうか?
―冲方
そうですね。物語の構想を練るにあたって「過去作品のことは考えなくていいよ」と黄瀬さんが言ってくれたんですが、それは黄瀬さんだからこそ言えたこと。思い入れが強すぎてみんな遠慮してしまった結果、迷走してまったんです。
―AA
根強いファンも多く、いざ新しく作るとなると作り手としては強いプレッシャーに感じてしまうのも無理ないと思います。
―黄瀬
たぶん僕だけだと思うんですが、ファンであることがスタート地点になってないんです。士郎正宗さんのマンガは読んでましたが、何年も持っているのにいまだに理解できていない部分もいっぱいあるマンガで。手書きや欄外に書いてある部分もきちんと読まないと、きっと理解できないのでしょうが、僕はそれを全て読み切っていたわけではないので今も原作を読んで新しいことを発見したりしますよ。「こんなこと書いてあったんだ」って。そういう意味でまだ僕はファンになりきれてないまま仕事していたという感じですね。
―冲方
僕にとって『攻殻機動隊』は教科書。『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』が公開されたのが18歳の時で、ちょうどデビューした年です。作品として優れているのはもちろん、SF氷河期時代に風穴を開けてくれた作品で両方の意味で教科書だと思っています。
『攻殻機動隊ARISE』に取りかかる時も最初はガチガチでしたけど、黄瀬さんのふわっとしたところにだんだん感化され自由に動けるようになりました。
―AA
黄瀬さんは長年作品に携わっていますが、過去作品のことを頭から切り離して新たに取り組む、というのは苦労しましたか?
―黄瀬
全然です。今回はこれまでと関わり方が全く違ったので。今まではデザインなど全てができあがった中で作業スタート、と進めてきたのが、今回は「さてお話はどうしましょうか」というところから関わっていって、最終的に「好きにすればいいじゃない!」みたいな。
―冲方
あははは!(笑)
―黄瀬
では「好きにすればいいじゃない」で進めるにはどうしたらいいんだろうと考えた時、前の話の続きを書くよりも、より過去に遡ったほうが好きに書けるんじゃないの、という話になったんですよね。
もう一つは、士郎さんのプロットで素子の出自の設定があり、それを使ってOKということで出していただいたので、それを使うためには若い素子を書いたほうがしっくりくるんじゃないかなと、ぼんやり思いました。
―冲方
そこから、仲間集めの話にしましょうとようやく何をするか決まりましたよね。
―AA
全4話を通して若くてまだ弱さもある素子から“強い素子”につながるという決着になると思うのですが、border:4まで制作して、今振り返ってみるとどうですか?
―冲方
素子の色んな側面を描けてよかったなと思います。素子が人間になったので、それが一番の課題でしたね。とにかく色んな面を見せようと思いました。弱い、孤立してる、恋人もいて恋愛もする、そしてだまされる(笑)。
―AA
素子に恋人がいて、おかしな言い方ですがちゃんと恋愛をしている素子を見ることができたborder:3はすごく異質な感じがしました。見ちゃいけないものを見たような。
―冲方
border:3は黄瀬さんが監督も担当したので。そこはもう黄瀬さんの力です。生脚から始まって、脚だ! 恋だ! と。
―黄瀬
素子の声を担当してくださった坂本真綾さんも「なんだか照れる」って言ってました。
―冲方
坂本さんはすごく照れてましたよね。素子の恋愛は、「見ていいのかしら」みたいなタブー感はありましたけれども、そこを打ち破れたのがよかったのではないでしょうか。素子にからめるキャラクターの幅がぐっと広がった。
―AA
素子の未熟さや若さを表現するために、何を盛り込むか、どういう面を見せていこうか、という脚本を作る前段階で話し合いなどがあったのでしょうか。
―冲方
『border:1』の時に意識したのは、とにかくかわいげのある素子を描くこと。仲間を集めるにあたって必然性を作る必要があるので、オールマイティな素子だとそれが無くなってしまう。
―黄瀬
“強い素子”だと、自分で何でもできてしまうから、それだと仲間なんか必要なくて1人で良いじゃないかとなってしまうんですよね。
―冲方
そうなると仲間が集まってこなくて、過去に遡った物語としてつながらなくなる。それだとおかしいんですよね。原作の時にすでに仲間がいるので、その前段階としてはオールマイティではないはず。「border:1」ではかわいげ、あどけなさ、あとは純粋さみたいなものが出ていて、少年的というか、中性的な素子になったと思います。
―AA
キャラクターデザインについても伺いたいのですが、今回のデザインはこれまでの『攻殻機動隊』のキャラクターデザインから、がらりと印象が変わったと思います。キャラクターデザインについてはどんな風に決まったのでしょうか。
―黄瀬
あまり考えてないんですよ。ただ素子を若返らせるにはどうしたらいいんだろうと悩んで、色々とやってみたんですがどうしても若返ってくれない。子供にはなってくれるんですけど。そうやって悩んでいる時期に、ちょうど女性の髪型で前髪ぱっつんの人が増えている時期で女優さんもそういう前髪の人が増えていたんですよね。なので前髪ぱっつんにしてみた、という感じで(笑)。
―冲方
最初のキャラクターデザインを拝見して、いけると思いましたけどね。前髪が短くなって表情が見やすくなって、素子の内面を表現するのに思い切ったデザインになったと思いました。今までは隠すことで神秘性を出してきたので、真逆です。
―黄瀬
長くしていると結局イメージが変わらなくなってしまうんです。子供っぽくなったくらいにしか見えないので、きちんと少女にするにはどうしたらいいか。なかなか決まらなかったです。一度スッパリ割り切って、このデザインで作業を進めてみたら現場はイメージの変わりぶりにザワザワしていました、最初は。
―冲方
黄瀬さんは動かす前提で絵を描かれているので、Production I.Gの石川光久社長が「早く動かして」と言ってました。動いてみれば、絶対にその良さが誰にでもわかると話していましたよ。
―黄瀬
そうだったんですか? 僕のいないところで何を言ってるのかわからないものですね(笑)
『攻殻機動隊ARISE border:4 Ghost Stands Alone』
9月6日全国劇場上映開始(2週間限定)
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