ガンダムシリーズの生みの親である富野由悠季氏を総監督に迎えて、ガンダム新シリーズ『ガンダム Gのレコンギスタ』(以下『G-レコ』)がスタートする。8月23日からまず2週間限定で特別先行版を劇場上映、9月8日よりdアニメストアでその独占配信、そして2014年10月からは満を持してのテレビシリーズが開始する。
富野由悠季総監督が、TVシリーズとしては『∀ガンダム』以来15年ぶりに手がける新作ガンダムとして話題騒然だ。その『G-レコ』の要となるモビルスーツ、主人公ベルリが搭乗する謎のモビルスーツ「G-セルフ」のデザインを手がけたのが、ゲーム、アニメ、イラストなどで多才な活躍を続ける安田朗氏だ。富野総監督とは、『∀ガンダム』のキャラクターデザイン原案でもともに仕事をしている。
安田朗氏に『G-レコ』「G-セルフ」誕生の秘密、『∀ガンダム』について、そして富野総監督と仕事をすることについてなどを話していただいた。
[取材・構成:数土直志]
『ガンダム Gのレコンギスタ』>
□ 『ガンダム Gのレコンギスタ 特別先行版』
2014年8月23日(土)~9月5日(金)2週間限定公開
□ TVシリーズ2014年10月よりMBSほかアニメイズム枠にて放送スタート
■ 「G-セルフ」、デザインのコンセプトは“光ガンダム”
―『ガンダム Gのレコンギスタ』(以下『G-レコ』)の話からお伺いしたいと思います。本作での安田さんのお仕事についてまず教えていただけますか?
安田朗さん(以下安田)
主役メカの「G-セルフ」を担当して、一部のメカの方向性もだしています。
―本作は「ガンダム」シリーズの最新作となりますが、ガンダムというと多くのかたがそれぞれのガンダムのイメージを持っています。それをデザインするときに、安田さん自身のガンダムは、どのようにデザインされようと思いましたか?
安田
富野ガンダムは、そこから新しい発展をするための、ひとつの分岐点となるものであるべきだと思いました。何かを加えていくための元デザインです。肩に加えたりとか、ここからまた進化するための素体的なものになるべきだと思いました。
―そのときに富野監督から、何か具体的なオーダーはあるのでしょうか?
安田
富野監督は具体的にオーダーしないタイプですね。富野監督が僕が出したものを背負い投げで返して、投げられた僕が立ち上がって(笑)。カウンター系の人なんです。僕は何回も立ち直ってやっていきます。
もしくは富野監督が一回も背負い投げできないものを、「もう出来ました」と決めて出す。そのふたつしかないです。僕は後者ができなかったんです。
それとデザインは富野監督のヒントをもとにやりました。そのヒントは、「フォトン・バッテリー」でした。
―フォトン・バッテリーというのは、どういうものなのでしょうか?
安田
今回のガンダムは核融合エンジンではなくて、フォトン・バッテリーで動いているんです。フォトン・バッテリーがモビルスーツの中に入っています。『G-レコ』では、ビーナス・グロゥブという謎の場所から軌道エレベータを通してフォトン・バッテリーが送られて来て、それがエネルギー問題を解決しています。
小さな部屋ぐらいのフォトン・バッテリーがあれば街全体が1年ぐらい暮らせる、そんな感じだと思ってください。
―それをモビルスーツが利用すると機動性があがるという発想ですか?
安田
いや、他のものがないんですよ。核融合エンジンはもう存在してないから。フォトン・バッテリーは、光を物質のなかに閉じ込めて、それをちびちび使うためのシステムだと僕は認識しました。つまり光じゃないですか。そこで次のガンダムは「光ガンダムなんだ」と思い、デザインコンセプトを“光ガンダム”にしました。
では“光ガンダム”に何が必要かというと、要はこの頭にある赤い部分です。光である記号なんですね。そして「G-セルフ」は全体がフォトン装甲というので出来ているらしいんです。そこで僕はこれをインビジブル・チタニウムというふうに決めました。透明装甲です。全体が積層されたディスプレイ装甲です。ディスプレイが何枚も重なっているのがG-セルフの装甲なんです。ディスプレイ装甲ですから、光を全部制御することができます。これ自体が光回路であり、バッテリーであるという感じです。
―エネルギーの心臓部はないんですね。
安田
はい。フォトン・バッテリーを、たくさん積んでいる。そしてG-セルフは他のモビルスーツよりもでかいフォトン・バッテリーを積んでいる。僕自身ではフォトン・バッテリーは一世代、二世代、三世代というふうにあってと決めて、最高圧縮のフォトン・バッテリーが積まれているのがG-セルフで、ほかの機体とは違うと設定しています。
―斬新な設定ですね。
安田
いってみれば、富野監督がフォトン・バッテリーを出した時点で、もう新しくなると決まっているわけです。富野監督の役割は、ガンダム世界の中核のオリジナルを作って、それをほかが盛り上がるシステムですよね。
富野ガンダムは、自分たちが楽しんで仕事することによって、色んな人がたくさんの祭りにしやすいんですよ。富野監督がガンダムの中核を作り続けることによって、楽しめる幅が広がるわけです。
■ 想いは“普通のガンダムを作りたい”
―富野監督は、自分の発想を超えたもの、期待と違うものを喜ぶほうですか?それとも、こうあるべき、という感じですか?
安田
ガンダムにおいては、ガンダムの役に立てば喜ぶと思います。
―今回、最初に「コレです」とデザインを出されたときの反応はいかがでしたか?
安田
喜んでくれました。最初のはもう少し『機動戦士ガンダム』のRX-78っぽい感じですね。なぜそれを出したかというと、僕はどうしても普通のガンダムを作りたかったからです。
とにかくガンダムで一番やってはいけないことは、目と角をいじることですよ。ガンダムは2つの目に角があって、角がなくなったらもうガンダムではなくなるわけです。
―RX-78はかなり意識されたんですか?
安田
それをだすことで僕は普通のガンダムを作りたいと、富野監督に対する意思表示なんです(笑)。僕はガンダムは絶対に青と赤と黄色と白じゃないと許せないです。初めに見たときは派手過ぎると思うけど、10年見続けると「こうじゃないとダメなんだよな」という。それをするためには、最も力の強い色合いで迫らないといけない。
このバランスは近代画家のモンドリアンの赤と黄色と青のコンポジションみたいなものなんです。あれは、最小限の色合いでどれだけいい構成をしたら、みんなの心に焼き付くかという実験なんです。それがガンダムでもなされているわけです。つまり、ガンダムの色をひとつ減らすと心に残らないんですよ。
―これはひとつのメカではあるけれど、安田さんのなかでは、これこそガンダムだという主張も込められているんですね。
安田
そうですね。僕のなかではガンダムは、派手な色をしたものがメチャクチャ強くないといけないんです。
―『G-レコ』の企画の立ち上がりについても教えてください。本作の企画はいつごろ生まれて、どのように関わるようになったのですか?
安田
だいぶ昔の話なので、ぼんやりとしか覚えていないです。2010年にはすでに僕の知り合いである西村キヌさんが今回の企画に関わっていて、「安田さんもやりませんか?」という話がありました。
そのときは僕は少し忙しくて、富野ガンダムは傍から見るのでいいと思っていたんです。それが2012年のどこかのパーティで富野監督が僕を見つけて「俺を助けろ!」と叫んだんです。それで「時間が出来たらやります」と言いました。「助けろ」というのは「サポートしろ」という意味だったかもしれませんが、僕はそう受け取りました。
―忙しくても何とかやろうと思ったのは、やはりガンダムに惹かれることがあったということですか?
安田
ガンダムはいつかはやりたいと思っていました。ただそれまでは実は僕は子どものためのおもちゃになるようなかたちでやりたかったんです。
「ガンダムの最高峰って何だろう? 」と考えたときに、それが答えかなと思ったんです。僕は『∀ガンダム』をやっていたので、自分のなかで『∀ガンダム』の方法論に対する揺り戻しもありました。
■ メカはキャラクター:顔を意識してデザイン
―安田さんは、ご自身のイラスト、キャラクターやメカニックの特徴を、どのように捉えられていますか?自分はここがちょっと人と違う、あるいはここはいつも無意識に出てくるなどなのですが?
安田
僕が意識しているのは、顔の造形ですね。僕はすごく顔を重要視します。そこが他の人と違うと思います。
―その結果が、『G-レコ』ではG-セルフの顔になったということですね。
安田
はい。僕はメカをキャラクターだと捉えているので、とりあえずキャラクター性が強くなるまで描くという感じです。人型であることをものすごく意識しますね。
―『機動戦士ガンダム』でのザクみたいなものを描くという気持ちはありますか?
安田
ザクも人間でしたよね。初めて見たときは宇宙服に見えましたから。あれはキャラクターがすごいですよ。僕はメカがただの機械に見えるのを恐れる、といいますかやらないんです。
ロボットアニメの『マジンガーZ』の時に小学生低学年だったので、巨大ロボットアニメの歴史をそのまま娯楽として楽しんできました。そのロボットの進化で気づいたのは、ロボットは絶対にキャラクターでないといけないということです。
僕はメカを生物とか知っているものをモチーフにして表したいんです。とくに人間に対してすごい興味があって、人型なのに人間ではないロボットに興味があります。どちらにも見えるというのがすごい好きです。
初めてガンダムを見たときに武者に見えましたからね。しかも、ふつうのロボットよりも白い部分が多くて、「なんて合理的な侍なんだ」とすごい驚きを感じました。
昔と比べてファンの年齢層が上がっているので、今はそういうのはたぶん難しいと思います。昔と同じことをやるとはできませんが、僕は大人に向けても恥ずかしいデザインをお送りしたいです。
―恥ずかしいものが恥ずかしくなく見えると。
安田
そうです。僕はスーパーマンのデザインがずっと青と赤で、あれをずっと引き継いでいるのが好きなんです。途中で変わっていますけどね。
だけど、『X-MEN』は一番人気があるウルヴァリンは、本当は黄色いデザインなんです。昔は茶色と黄色でした。だけど映画になると黒になってしまいました。なぜかというと、黄色はカッコ悪いからです。僕は黄色がカッコ悪いということを知っていますが、僕がやれば黄色になりますよ。絶対に譲らないと思います。
―最後にこれからはじまる作品『ガンダム Gのレコンギスタ』について、ファンにメッセージをお願い出来ますか。ここを見ておくと面白いよというポイントはありますか?
安田
今回はモビルスーツがたくさん出るので、物量があって見応えがあるんじゃないかと思います。おそらく「G-セルフ」はメチャクチャ強いと思うので、楽しみにしてください。
後編 『∀ガンダム』で富野由悠季監督の神の御業を見たに続く
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