posted by Jay Kogami
音楽ストリーミングサービス「スポティファイ」のプレイリストを巡り、英国大手ダンスレーベルMinistry of Soundが告訴
Spotify
英国のダンスミュージック・ブランドで世界的に知名度の高い「Ministry of Sound」(ミニストリー・オブ・サウンド、以下MOS)は、音楽ストリーミングサービスのスポティファイ(Spotify)をコンピレーション・アルバムの楽曲を使用したプレイリストが著作権侵害に当たると主張して、告訴しました。
Ministry of Sound
MOSは9月2日(現地時間)から訴訟手続を開始しています。MOSはスポティファイに対し対象のプレイリストの差し止め、そしてその他のプレイリストに対してMOSコンピレーションからの恒久的なコピーのブロックを要求しています。MOSはまた損害賠償を求めています。
img via Flickr
MOSのCEO、ローハン・プレゼンサーは、2012年からこれまでスポティファイにプレイリストの削除を要請してきたそうです。削除要請に関する具体的な日付までは明らかにされていません。
第一報で報じたザ・ガーディイアンによれば、スポティファイはこれまでMOSのレーベル部門とライセンス契約に関する話し合いを持ったものの、合意までは至らなかったそうです。
裁判の結果は、選曲および曲順の関係から、コンピレーション・アルバムは著作権保護の対象になるかどうか次第で決まります。スポティファイにはアルバム全曲をストリーミング配信する権利があります。勿論これは今回訴訟の対象になっているプレイリストにも該当します。しかしここでの問題は、コンピレーション・アルバムの曲順も著作権で保護されるのか、ということになります。
スポティファイにおけるプレイリストの重要性
プレイリストはスポティファイにおいて重要な位置付けを占めており、2000万曲以上の楽曲からユーザーが音楽を見つける手助けをします。
スポティファイでは2400万人以上のユーザーが10億個以上のプレイリストを作成しました。8月にスポティファイはプレイリストをより簡単に検索できる新機能「Browse」を開始しました。
スポティファイのプレイリスト例:オバマ大統領
img via Music Network
これに対してプレゼンサーは、
「今だからこそキュレーションが話題ですが、MOSでは過去20年以上に渡りキュレーションに力を注いできました。誰かが先頭に立ってキュレーションされた作品をただのリストと同様にしか思わないサービスやユーザーに対応策を取らなければ、キュレーターの作品をコピーする人間があとを立たなくなるでしょう。」
とコメントしています。
コンピレーション・アルバムのストリーミング再生は、これまで直面してこなかった新しい問題を生み出します。プレゼンサーは、
「私達がコンピーレション・アルバムを作成するためにメジャーレーベルからライセンスを取得する際には、メジャーは私達のアルバムをストリーミング再生する権利までは認めていません。」
とコメントしています。恐らくこの主張はコンピレーション・アルバムを作成するレーベルの大多数とも同じだと思います。
プロフェッショナル(レーベルや有名DJ)がコンパイルするコンピレーション・アルバムのビジネスは、ユーザーが生成し共有する音楽ストリーミングサービスのプレイリスト文化においてどのような位置付けになるのか、がミニストリー・オブ・サウンドの訴訟での一つの焦点であり、今後のアルバムビジネスが音楽ストリーミングにどう適応できるのかの活路になる予感がします。
コンピレーション・アルバムと音楽ストリーミングサービスの現状
MOSはこれまで5000万枚以上のコンピレーショ・アルバムを販売してきました。一方でMOSは自社でアーティストを発掘したり契約するレーベル・ビジネスも行っています。MOSはこの部門が権利を持つ音楽のストリーミング利用許諾をスポティファイには与えていません。
NOW That’s What I Call Music
MOSのスポティファイとの契約とアプローチは、もう一つの有名なコンピレーション・シリーズ「Now That’s What I Call Music!」シリーズとは180度異なります。Nowシリーズは、ストリーミング再生の許諾以外にも、Spotify音楽アプリをデスクトップ・プラットフォーム向けに提供し、アルバムの配信窓口を広げています。ですが、Nowシリーズの共同オーナーは、ユニバーサル・ミュージックとソニーミュージックと大手レコード会社で、NOWコンピレーションにセレクトされる楽曲の多くの権利を保有しています。従ってNOWシリーズの視聴が上がれば、彼らのストリーミング再生からの収益も上がる仕組みになります。
プレゼンサーはコンピレーション・ビジネスとスポティファイの関係について、
「スポティファイはコンテンツ・オーナーには再生に応じた支払いをしますが、コンテンツをコンパイルするサードパーティには支払ってくれません。私達は過去4年に渡り、この問題を解決し、キュレーションで報酬をえられるようにスポティファイと対話を試みてきました。しかし、キュレーションに支払いを与えるモデルを彼らは現在持ち合わせていないというのが、彼らの答えです。」
と述べています。
=====
スポティファイでは音楽を検索するよりも、プレイリストを検索したりする中で新しい音楽を見つけたり、共通のアーティストが好きな人をフォローしあったりでき、新しい音楽体験を楽しめます。一方、スポティファイもキュレーションのパワーに注目していることは確かです。キュレーションされたコンテンツで、ユーザーのエンゲージメントを高めたりブランドを巻き込んだり、新しいモデルにチャレンジしています。
ですがコンピレーションをコンパイルするレーベルの主張も納得できます。コンピレーションは、アルバムを一つのアートとして作っている数少ない音楽ビジネスモデルですから。MOSの主張が通ってしまうと、MOSだけでなくクオリティの無い(または保てない)コンピレーション・レーベルも著作権を主張しプレイリスト向けに配信されなくなるという可能性も今後出てきますよね。そうなれば、スポティファイだけでなく、プレイリストを作成できる全ての音楽サービス(RdioやDeezer、YouTubeなども)も著作権侵害の対象になってしまいます。その意味で、今回の裁判はユーザーが自由に楽曲をキュレートできるプレイリスト文化にとって重要な決定になりますね。
この訴訟は今後の展開も追っていきたいと思います。
■記事元:http://jaykogami.com/2013/09/4055.html
記事提供:All Digital Music
■ジェイ・コウガミ プロフィール:http://jaykogami.com/about
■Jay Kogami Twitter:http://twitter.com/jaykogami
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音楽ストリーミングサービス「スポティファイ」のプレイリストを巡り、英国大手ダンスレーベルMinistry of Soundが告訴
Spotify
英国のダンスミュージック・ブランドで世界的に知名度の高い「Ministry of Sound」(ミニストリー・オブ・サウンド、以下MOS)は、音楽ストリーミングサービスのスポティファイ(Spotify)をコンピレーション・アルバムの楽曲を使用したプレイリストが著作権侵害に当たると主張して、告訴しました。
Ministry of Sound
MOSは9月2日(現地時間)から訴訟手続を開始しています。MOSはスポティファイに対し対象のプレイリストの差し止め、そしてその他のプレイリストに対してMOSコンピレーションからの恒久的なコピーのブロックを要求しています。MOSはまた損害賠償を求めています。
img via Flickr
MOSのCEO、ローハン・プレゼンサーは、2012年からこれまでスポティファイにプレイリストの削除を要請してきたそうです。削除要請に関する具体的な日付までは明らかにされていません。
第一報で報じたザ・ガーディイアンによれば、スポティファイはこれまでMOSのレーベル部門とライセンス契約に関する話し合いを持ったものの、合意までは至らなかったそうです。
裁判の結果は、選曲および曲順の関係から、コンピレーション・アルバムは著作権保護の対象になるかどうか次第で決まります。スポティファイにはアルバム全曲をストリーミング配信する権利があります。勿論これは今回訴訟の対象になっているプレイリストにも該当します。しかしここでの問題は、コンピレーション・アルバムの曲順も著作権で保護されるのか、ということになります。
スポティファイにおけるプレイリストの重要性
プレイリストはスポティファイにおいて重要な位置付けを占めており、2000万曲以上の楽曲からユーザーが音楽を見つける手助けをします。
スポティファイでは2400万人以上のユーザーが10億個以上のプレイリストを作成しました。8月にスポティファイはプレイリストをより簡単に検索できる新機能「Browse」を開始しました。
スポティファイのプレイリスト例:オバマ大統領
img via Music Network
これに対してプレゼンサーは、
「今だからこそキュレーションが話題ですが、MOSでは過去20年以上に渡りキュレーションに力を注いできました。誰かが先頭に立ってキュレーションされた作品をただのリストと同様にしか思わないサービスやユーザーに対応策を取らなければ、キュレーターの作品をコピーする人間があとを立たなくなるでしょう。」
とコメントしています。
コンピレーション・アルバムのストリーミング再生は、これまで直面してこなかった新しい問題を生み出します。プレゼンサーは、
「私達がコンピーレション・アルバムを作成するためにメジャーレーベルからライセンスを取得する際には、メジャーは私達のアルバムをストリーミング再生する権利までは認めていません。」
とコメントしています。恐らくこの主張はコンピレーション・アルバムを作成するレーベルの大多数とも同じだと思います。
プロフェッショナル(レーベルや有名DJ)がコンパイルするコンピレーション・アルバムのビジネスは、ユーザーが生成し共有する音楽ストリーミングサービスのプレイリスト文化においてどのような位置付けになるのか、がミニストリー・オブ・サウンドの訴訟での一つの焦点であり、今後のアルバムビジネスが音楽ストリーミングにどう適応できるのかの活路になる予感がします。
コンピレーション・アルバムと音楽ストリーミングサービスの現状
MOSはこれまで5000万枚以上のコンピレーショ・アルバムを販売してきました。一方でMOSは自社でアーティストを発掘したり契約するレーベル・ビジネスも行っています。MOSはこの部門が権利を持つ音楽のストリーミング利用許諾をスポティファイには与えていません。
NOW That’s What I Call Music
MOSのスポティファイとの契約とアプローチは、もう一つの有名なコンピレーション・シリーズ「Now That’s What I Call Music!」シリーズとは180度異なります。Nowシリーズは、ストリーミング再生の許諾以外にも、Spotify音楽アプリをデスクトップ・プラットフォーム向けに提供し、アルバムの配信窓口を広げています。ですが、Nowシリーズの共同オーナーは、ユニバーサル・ミュージックとソニーミュージックと大手レコード会社で、NOWコンピレーションにセレクトされる楽曲の多くの権利を保有しています。従ってNOWシリーズの視聴が上がれば、彼らのストリーミング再生からの収益も上がる仕組みになります。
プレゼンサーはコンピレーション・ビジネスとスポティファイの関係について、
「スポティファイはコンテンツ・オーナーには再生に応じた支払いをしますが、コンテンツをコンパイルするサードパーティには支払ってくれません。私達は過去4年に渡り、この問題を解決し、キュレーションで報酬をえられるようにスポティファイと対話を試みてきました。しかし、キュレーションに支払いを与えるモデルを彼らは現在持ち合わせていないというのが、彼らの答えです。」
と述べています。
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スポティファイでは音楽を検索するよりも、プレイリストを検索したりする中で新しい音楽を見つけたり、共通のアーティストが好きな人をフォローしあったりでき、新しい音楽体験を楽しめます。一方、スポティファイもキュレーションのパワーに注目していることは確かです。キュレーションされたコンテンツで、ユーザーのエンゲージメントを高めたりブランドを巻き込んだり、新しいモデルにチャレンジしています。
ですがコンピレーションをコンパイルするレーベルの主張も納得できます。コンピレーションは、アルバムを一つのアートとして作っている数少ない音楽ビジネスモデルですから。MOSの主張が通ってしまうと、MOSだけでなくクオリティの無い(または保てない)コンピレーション・レーベルも著作権を主張しプレイリスト向けに配信されなくなるという可能性も今後出てきますよね。そうなれば、スポティファイだけでなく、プレイリストを作成できる全ての音楽サービス(RdioやDeezer、YouTubeなども)も著作権侵害の対象になってしまいます。その意味で、今回の裁判はユーザーが自由に楽曲をキュレートできるプレイリスト文化にとって重要な決定になりますね。
この訴訟は今後の展開も追っていきたいと思います。
■記事元:http://jaykogami.com/2013/09/4055.html
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