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今までの音楽雑誌とは全く違うものを作りたい〜購読無料の音楽雑誌「ERIS」

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エリス メディア合同会社 ERIS 発行人
土田真康氏

OTOTOYプロデューサー/音楽評論家/
エリス メディア合同会社 ERIS 編集長
高橋健太郎氏

今までの音楽雑誌とは全く違うものを作りたい〜購読無料の音楽雑誌「ERIS」

エリス メディア合同会社 ERIS 発行人 土田真康氏
OTOTOYプロデューサー/音楽評論家/エリス メディア合同会社 ERIS 編集長 高橋健太郎氏
OTOTOYのプロデューサーで音楽評論家の高橋健太郎氏が編集長を務める音楽雑誌「ERIS」(エリス)の第3号が6月に発行された。
無料で購読できる同誌は、北中正和、ピーター・バラカン、磯部涼、藤川毅などの評論家が、それぞれ一つのテーマで長期連載しており、一回の連載も相当な文字数でかなりの読み応えがある。既に登録者数が1万人を超えており、現在も順調にその数を伸ばしている。近年、次々と雑誌が休刊/廃刊していく中、なぜ今音楽雑誌を創刊したのか? また、電子書籍版を無料で配信する狙いとは? 「ERIS」創刊のいきさつから今後の展望まで、発行人の土田真康氏、編集長の高橋健太郎氏にお話を伺った。

「ERIS/エリス」ホームページ(購読はこちらから):http://eris.jp
[2013年6月3日 / 世田谷区代田 エフ・ビー・コミュニケーションズ(株)にて]

プロフィール
土田 真康(つちだ・まさやす)
エリス メディア合同会社 ERIS 発行人
銀行勤務を経てアルファレコード(株)入社。
ALFA AMERICA、A&M、ポール・ウエラーのレスポンド、エニグマなどのディレクター、プロモーターを担当。邦楽制作部へ移り、スターリン、グランドスラム、ロジックシステム、ゼルダ、グルーヴァーズなどを担当。企画ものでは「TOKYOディスクジョッキーズ・オンリー」を高橋健太郎氏のプロデュースで制作、また台湾のクリスティン・シューやベルギーのテクノバンドTELEXの世界初CD化など。
90年代中頃、音楽業界を離れ、(株)ヤナセの広報室などに勤務。2012年10月電子書籍版の音楽雑誌ERISを発行。
ERISホームページ:http://eris.jp/
ERIS facebook:https://www.facebook.com/eris.magazine

高橋 健太郎(たかはし・けんたろう)
音楽評論家/音楽制作者/ERIS 編集長
一橋大学の在学中より「YOUNG GUITAR」「Player」などの音楽誌でライターデビュー。その後「朝日新聞」やマガジンハウス関連の一般紙にもレギュラーを持つ。
ライターの他、音楽プロデューサー、レコーディングエンジニアとしても活動するようになり、2000年にインディーズレーベル「MEMORY LAB」を設立。さらに、音楽配信サイト「ototoy」(旧レコミュニ)の創設にも加わった。
・「Musicman’ RELAY」高橋健太郎氏:http://www.musicman-net.com/relay/97.html

1.
●「ERIS」はどのような経緯で創刊されたんでしょうか?

高橋:土田さんが音楽業界を離れてから、しばらく連絡を取ってない時期があったんですけど、2008年頃のある日連絡があって「このご時世だけど、やっぱり音楽雑誌をやりたい」と言われたんですね。「う〜ん…。それはちょっとないんじゃないですか?」というようなことを言ったと思うんですけど(笑)、「何かやるとしたら協力してくれる?」と言われて。そういう話って僕らは割とあるんですけど、大抵あまり面白いことにはならないから、それほど前向きではなかったんですね。

●土田さんは、その時はどういう心づもりでいらしたんですか?

土田:ちょうどヤナセを辞めようと思っていた頃なんですが、それで何か好きなことをしようと思った時に、今更レコード会社も違うなと。それで、2000年くらいからネットの時代になって、世界中にいいレコードが山のようにあっても、世の中には全然伝わってないことがすごくもったいないなと思っていました。そして、音楽業界の雰囲気とは違って、一般の人たちはすごく自由に音楽を楽しんでる。色んなコンサートに人がいっぱい来ているし、街に出れば世界中の音楽が流れてるわけじゃないですか。そういうのを伝える媒体を考えたときに、古い人間なので音楽雑誌みたいなのがあればと思ったんですよ。今ある音楽誌とは一味違う雑誌が。ひょっとしたらそういうものを望んでる人もいるんじゃないかなと。それで、健太郎さんや昔お世話になった方に声をかけたのが始まりですね。

●土田さんは94年にアルファレコードを離れて、長年ヤナセにいらっしゃって、そして突然会社を早期退職までして音楽誌を始めたわけですよね?

土田:ちょうど梁瀬次郎会長が退かれて、銀行の人たちが入ってきて全然違う会社になってしまったという理由もありますね。また、それなりの退職割増金がもらえたし。その時何かやりたいなと思って、考えたらやっぱりまた音楽に戻ってくるんですね。

●では、ヤナセの社員をやりながら音楽への思いはずっと?

土田:ずっと音楽が好きでしたし、レコード会社にいた頃もコンサートに行くのが大好きだったので、暇があるとコンサートに行って健太郎さんとか会ってましたね。レコード会社の人たちって昔からそうなんですけど、コンサート来てないんですね。

高橋:今は特にですね。多分90年代ぐらいまでは面白い外タレのコンサート行くと、自分の会社のアーティストじゃなくても結構音楽業界の人もいて、終わってから一緒に飯食いに行くとかよくあったんですけど。そういう中では土田さんは自分でコンサートとかCDにずっとお金を使い続けてる人ですね(笑)。こういう人がもっとたくさんいたらどんなにいい世の中かと(笑)。

土田:レコード会社の時もそうですよ。サンプル盤ほとんどもらうことなかったです。洋楽のサンプル盤って80年代は手に入るのが遅かったじゃないですか。向こうで発売されたと同時にレコード店に行って購入しちゃうから(笑)。

●ERISはバックナンバーも含めて無料で配信していますが、本当に最初からビジネスとして考えられてたんでしょうか?

高橋:ビジネスにしようとしてなかったわけじゃないんでしょうけど(笑)。僕への話も、最初はライターとして何か書いてよという話だったんですけど、「じゃあ、編集長だったら引き受けますよ」と言ったんですよ(笑)。どうせ実現しないだろうと思っていたのもあるけれど、その頃って、WEB雑誌的なものが出来て来て、依頼は結構あったんですけど、結局すぐ企画自体がぽしゃる。だから、関わるんだったら根本から関わらなきゃと思ったんです。で、企画当初は紙で出すことしか考えてなかったんですけど、色んな音楽雑誌がネットに移行しなければやっていけないような状況も横目で見ていたから、今からインディー雑誌やっても難しいだろうというのも分かっていて、今までの音楽雑誌のパターンと全く違うものをやらなければ多分出せないだろうなと思っていたんですよね。普通にやってもネットの情報に敵わないし、そういう中で話題作りの自転車操業になっていったり、あるいは広告収入でなんとかしようとしているうちに、読者自体がその記事をあまり信用してくれなくなって離れていくみたいな、そういうパターンを90年代から2000年代の半ばくらいまでみんな繰り返してきたので、ミュージシャンではなく音楽について語る人を主体にしたものをやろうと思って。その人が好きな音楽なり、音楽生活なりを語る、何人かのソムリエと言うか、コンシェルジュみたいな人が集まって雑誌をやる、ということが基本的な企画としてありました。

土田:普通だとダンスミュージックの雑誌を作ろうとか、ロックの雑誌を作ろうとか考えるんですけど、そうじゃなくて、こんな人が執筆するからこんなことをやりたい、というような執筆者が主体の企画だったんですよ。

高橋:どうせ出すんだったら、できるだけ多くの人たちに読んでほしいじゃないですか? 色んな書店に置いてもらうとなると、大手出版社で出すしかない。それに、大手出版で出すくらいの感覚で考えないと面白いものはできないだろうなというのがあったので、音楽雑誌というよりは音楽を語る一般書籍としてある大手出版社に企画を持っていったら、社長室の室長が興味を持ってくれたりとか、他の出版社でも、企画書がほとんど通って後は社長決裁くらいまでいったこともあったんですね。

●聞く耳だけは持っていただけたわけですね。

高橋:上の方で聞く耳を持ってもらっても、実際誰が担当するか、みたいな話しになると、若い人は「いやー音楽雑誌は…」みたいな…。みんな逃げていく(笑)。

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今までの音楽雑誌とは全く違うものを作りたい〜購読無料の音楽雑誌「ERIS」(2/5)

2.
▲「ERIS/エリス」第3号
●(笑)ちなみに、ERISいう名前の由来は?

高橋:エリスという女性の名前があるじゃないですか? でも、あの綴りはELISなんですね。それでERのERISもあるのかなと思ったら、太陽系の冥王星の外側に発見された準惑星にERISと名付けられたものがあったんですね。元はギリシャ神話の女神の名前なんですけど、「不和と争いの女神」なんですよ。なぜこの準惑星がERISという名前になったかと言うと、発見されたときに、本当に太陽系の外惑星なのかそうじゃないのか大きな論争になったんですね。つまり、論争を引き起こすということで、ギリシャ神話の争いの女神の名前からERISという名前になったんです。論争の的というのが面白いなと思ったので、ERISにしました。

●なぜ電子書籍での発行にされたのでしょうか?

高橋:僕はOTOTOYという音楽配信サイトをやっているんですが、OTOTOYの社長は竹中直純さんという人で、彼はプログラマー出身なんですね。それで、彼がもう一つ手掛けているプロジェクトで「BCCKS」というのがあって、ウェブ上で本を作ろうというプロジェクトなんですよ。ERISもBCCKSのフォーマットで作ってるんですけども、2010年くらいに面白そうだったので自分も登録して、その頃、書いていた小説をとりあえずBCCKSで本にしてみようと思って使ったら、3日程度で文字組んで電子書籍が作れたんですね。それで「これはいけるな」と思って。紙で出そうと思ったら多分、編集に1ヶ月くらいかかると思うんですけど、一人で2〜3日でできるんだったら、これは楽じゃないかと思ったんですよね。そんなことを考えていたときに、糸井重里さんのグレイトフル・デッドの本でしたっけ?

土田:糸井重里さんが出した「グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ」という本をたまたま読んでて、これだと思ったのがきっかけです。いわゆるデッドヘッズがいて、テーパー(コンサートは録音が自由)やフリーコンサートなど60‘Sカルチャーの自由なゆったり感がITや電子書籍に合うんじゃないかなと。それで色々ネットで調べてみたら、ちょっと前にフリーミアムという言葉を生み出した「フリー」という日本の経済紙も表紙にして取り上げた本があって。

高橋:「フリー」の電子書籍版は無料だったんですよね?

土田:そうなんです。初回限定一万人のみフリーダウンロードというのを日本の出版社がやったらしいんですよ。嘘か本当か分からないですけど、ほぼ一日で一万ダウンロードされたらしくて、面白いものであれば電子書籍でも一万人が集まるんだと思って、健太郎さんに無料で電子書籍として出すことを相談しました。

高橋:それまで出版社でビジネスにしようとしてたのが、ある日突然「もうフリーでやろうよ」って言われて(笑)。ただ、電子書籍を自分で触っていて、これだったらお金かからないじゃん!と思っていたんですよ。紙代も印刷代もかからないし、書いてくれる人がいてテキストさえあれば、あとはなんとかなる。一万部配るのもタダですから流通もいらない。これだったらできるかもしれないなと思って。それで、そこからまた企画を考え直しました。

土田:健太郎さんがいて僕がいて、あとは数人の理解者がいればいいので、絶対この方が本当に面白い本はできるだろうなと思いました。あとはそれをたくさんの人に読んでもらうためにはどうすればいいかを単純に考えればいいんじゃないかと。

高橋:そこまできたらあとは書き手を集めるだけだったんですね。実は、音楽評論家ってすごい人数いるんですよ。僕は音楽執筆者協会に入っていたこともあるんですが、そこだけで2〜300人いるんですよ。だけど実際に頼みたい人ってなかなかいないんですね。「エリス」のやり方は細かい内容を指定するんじゃなくて、ある人に連載を丸投げする。もちろん僕もテーマを考えたり、話し合ったりするんですけど、「何を書くかはこだわらないからとにかくこの雑誌で毎回それなりのボリュームのものを連載してほしい」ということを頼める人を探して、一回一万字くらい書いてほしいとお願いしました。というのは、音楽雑誌の仕事をずっとやってきましたけど、昔はそれなりに長い原稿が書けたんですよね。ところがどんどん書ける場がなくなって、長い原稿はインタビューだけで、あとはコラムとかレビューとか、そういうものばかりになってきてしまったので。でも、長い原稿じゃないと自分の考えていることは主張できませんから、そういうフラストレーションは、多分他の人も持ってるだろうと思っていました。あるいは、まったく雑誌から依頼がないような研究テーマを持っている人もいるだろうな、とも。例えば、今、書いてもらっている東大教授の安冨歩さんは、震災後に原発関係の催しで知り合った人なんですけど、彼がマイケル・ジャクソンについて研究していて、それが実に面白かったので安冨さんにそう言ったら、「実は若いころ音楽評論家なりたかったんですよ」と。「じゃあここでデビューしましょう」みたいな話で執筆をお願いしたりとか。

これは最初からのコンセプトだったんですけど、表紙をミュージシャンにしないで書いてる人の名前だけで勝負する。でもしっかりした内容の音楽の本なら、多分今までの音楽雑誌とは全く違ってインパクトがあるんじゃないかなと思って作ったのがERISです。

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今までの音楽雑誌とは全く違うものを作りたい〜購読無料の音楽雑誌「ERIS」(3/5)

3.
●では、構想から約5年かかっているわけですね?

土田:そうですね。基本にあったのは本当に人なんですよね。書ける人たちはいるのに書く場がないという想いもあったので、そういう人たちが自分の伝えたいものを自由に書ける場がつくれたらいいなと。当然、どこかで売れるか売れないか、ということは考えてるんですけど、それが先にあるんじゃなくて、こんな人がこれを書いたら面白いとか、僕も健太郎さんも読みたくなるようなものができたら、世の中には同じように読みたいと思ってくれる人がきっといてくれるんじゃないかなと。

高橋:音楽についての本を読むのは楽しいとか、面白いということ自体を知らない若い人たちがいるとしたら、一回体験させたいなというのはありますね。ライターの側から言うと、先ほども言ったように今は短い原稿しか書けないので、食ってくには短い原稿を山のように書かなきゃいけないわけですよ。長いのを書けるのはライナーノーツぐらいですよね。でもライナーノーツも昔は原稿用紙十数枚とか書いたのが、今は三千字程度です。だから、ギャラもどんどん下がってくわけですよ。それに、ライナーノーツはけなすことはできないし、資料的なことを書かなきゃいけないものだから、長い文章で自分の考えを強く表現する場所ではないですよね。だからって単行本書けと言われてもそう簡単に書けない。
 今回、ERISで書いてくれる人を探した時に、強い何かを持っていて2年3年と同じテーマで連載できる人がどれだけいるだろうかと思うとなかなかいないですね。だからこの8人を見つけるのでもそれなりに時間がかかりました。創刊後、僕にも書かせてほしかったと言ってくるライターもいますけれど、僕の考えを話すと、たいていその後連絡は来ない(笑)。

●求められる条件が厳しいですからね。

高橋:いや、やっぱり勝負してもらわないと困りますから。

土田:僕は一音楽ファンとして90年代後半からずっと見ていたんですけど、少ない中でも音楽雑誌ってやっぱりいい原稿、面白い原稿を読む楽しさがあって、それを書いてる人たちもいるわけですね。健太郎さんが自由にやったら絶対面白い本ができるし、面白いライターも見つけてきてくれるんじゃないかなと思いました。「ミュージック・マガジン」読んで学んだ世代だし、中村とうようさんに影響受けたし。とうようさんはのちのち業界でやってく多くの評論家の人たちを育てたわけですよね。たとえば、鈴木啓志さんとか日暮泰文さんとか当時学生だった彼らを見つけてきてブルースを書ける人を育てたみたいな。そういうのが今の時代はないじゃないですか。やっぱりそういう良さが今の時代にあってもいいんじゃないかな、と。

●土田さんは発行人であり、自らが最高の読者ということですね(笑)。

土田:そうです(笑)。

高橋:僕もそういう意味では読者ですね。自分の読みたいものを集めている。8人の執筆者の中に、国分純平くんという人がいるんですが、これまでブログを書いていただけだけで、商業原稿はほとんど書いたことないと思うんだけれど、彼だったら絶対面白いなと思ってピックアップしたんです。彼としては相当なプレッシャーなはずなんですけど、期待通り、すごく面白いこと書いてるし、最初に考えたラインナップはそれなりに強力だなとは思っています。

●連載の回数は決めていないんですか?

高橋:とりあえず2年は連載してほしいと言っているんですね。

●年に何回くらい発行するんですか?

土田:季刊なので4回です。2年で8号分やると、無料でも何かしらの結果が出ると思うんですね。それに、音楽雑誌を1冊作るより安いお金で8号できるんですよ。8冊分が楽にできるんだったら何か起きるんじゃないかなという期待感もあって、当然ビジネスのことも多少は考えてはいるんですけど、まずはやってみようと。

●まずは自分達のアイデアを世に問うということでしょうか?

高橋:そうですね。ERISは連載主義で特集主義じゃないんですね。今の音楽誌は特集主義なんですよ。毎号特集を考えなくちゃいけないから、特集で自転車操業になってしまう。そういうのとは全く逆で、連載主義にして、連載じゃない部分は僕が書く。それには一つ考えがあって、毎回一万字くらいで8回書いてもらうと8万字になるので、その時点で単行本に、ということが視野に入ってくるんですよ。ひとつのテーマで書き続けているし、そこにもう少しコンテンツやカタログ的なものを足していけば、2年後には8人がそれぞれ1冊にできるだろうと。今は電子書籍でやっていますけど、このメンツでこの内容だったら紙の出版社にそれを持っていけば、単行本化は十分考えられると思います。今音楽雑誌はダメですけど、音楽書籍は意外に売れるんですね。毎月たくさん出ますし、当たるものは当たるわけです。

●ニーズはあると?

高橋:ニーズはありますね。僕の友人なんかも音楽の友社を辞めて、自分で音楽書籍専門の出版社を立ち上げてますけど、結構上手くまわってるんですね。日本の出版社は、雑誌と単行本の出版が分かれてますから、単行本の部署が雑誌にこういう連載をさせて、最終的にコンテンツを掬い上げるというシステムがなかなか機能しないんですよ。更に言うと、アメリカなんかだと、ライターにエージェントが付いていたりするんですけど、日本はライターに対するエージェントシステムが全くないんですね。そこもちょっと考えていて、僕らはこの電子媒体で書いてもらう。書いてもらううちにコンテンツがある程度できる。そしてこのコンテンツに対して僕らがエージェントになれば、出版社に対してプレゼンテーションができるわけですね。雑誌の立ち上げの時に、いくつか知っている出版社に「こういう雑誌を創刊するんだけど、連載の単行本化に興味ある?」と聞くとみんな興味あるんですよ。

●それは8人の方々にも事前に話をしてあるんですか?

高橋:出版社に話しを持ち込むときは、まず僕らに最初のプレゼンテーションはさせてください、と言ってあります。既に、「連載がまとまった時にはうちでやらせて下さい」と、手を挙げてる出版社もありますし、それでどれくらいリクープするかはわかりませんけど、2年〜3年続けて、ある程度コンテンツがまとまったときにエージェントとして間に入ることで、編集印税をそこからもらうという事もありうる。一つの収益手段にはなるなと。だからこその連載主義なんですね。

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今までの音楽雑誌とは全く違うものを作りたい〜購読無料の音楽雑誌「ERIS」(4/5)

4.
●考え方はネット時代の発想から組み立てられていますよね。それ以外のビジネスモデルはまだ考えていないのでしょうか?

高橋:ERISの場合は、購読の申込みをして登録してもらっているので、購読者のリストは持っているわけですよね。どれだけ集まるか全く分からずに始めたんですけど、一応、今1万人くらいの購読者がいます。今は1万人ですが、もっと人が集まって、こういう音楽本が好きな購読者が2〜3万人ついてるとなると、例えば広告が入ってくる可能性があったりだとか。だから続けることによって何か起きるんじゃないかなと考えています。単純に広告モデルという考え方もあると思うんですけど、それだけじゃなくて、「かなりコアな音楽ファンが1万人はいる」というところで、何らかのビジネスモデルは考えられそうな気がするんですね。

●ERISはなかなかコアな内容ですね。読者からの反応はいかがでしょうか?

土田:プレスリリースとか、健太郎さんや執筆者の方のTwitterだったり、Facebookで告知をして昨年の10月3日に配信スタートしたんですが、出したと同時にもの凄くありがたい反響があって、「こんな雑誌が読みたかった」という様なあたたかいコメントをたくさん頂きました。やっぱりこういう本を読みたいと思う人がいてくれたんだということがわかって、反響もいただけて、本当に嬉しかったですね。

高橋:ようやく電子書籍が世間に浸透してきて、デバイスを持っている人たちも増えてきた時期だったので、最初に経験した電子書籍がこれでした、という人も少なくないようでした。「こんなことできるんだ!」という反応もすごくありました。今週3号目が出るんですが、その辺の反応は落ち着いてくるので、内容勝負になってくると思うんですね。最初のうちは、電子書籍がタダということでわっと人が集まってきましたけども、嬉しいのはその後も毎日誰かが登録にくるんですね。次の号が出るとまたそこで一気に人がきます。執筆者の方々がトークイベントをやってくれたり、番組で話したりすると、その日だけで300人が登録に来ることもあります。まだまだ今は1万人ですけど、ポテンシャルは高いなと思ってますね。

●一部で話題になっていたり評判もいいのに、土田さんの話では音楽業界の人たちはあまり見てくれていないんじゃないか、と言うことでしたが?

土田:まだ情報が伝わってないんですね。今は書いた人たちのネットワークで広がっているだけなので。今後、このネットワーク以外の人たちに広めていけば、かなりの人数でこういった雑誌が好きな人がいてくれるんじゃないかなと思います。

●執筆者のファンだけで1万人ということですか?

高橋:そうでしょうね。例えば、今僕はTwitterで1万3千人フォロワーがいるんですが、ピーター・バラカンは3万人くらいいます。多分そういう所で1万人集めちゃったという状況だと思います。

●音楽業界関係者が必ずしも音楽に詳しいわけではないですし、一般人の方にもコアなファンがたくさんいますからね。

土田:ただ、音楽業界関係の人に知ってもらうのは非常に大切なことだと思いますし、2号目を出した時点で、ある程度世の中の感じと雑誌の感じが見えてきたので、まずは音楽が好きな人たちに伝わるような形で、SNS以外で広げていきたいなと。あと、とにかく伝えたいのは一読者として、それぞれの執筆の方たちが書いてる原稿は読んで頂ければわかると思うんですが、本当に素晴らしいので、できるだけ多くの人たちに読んで頂きたいということですね。音楽が好きで愛情がある原稿って、最近はそんなに読むことはないと思うので。そして、出してみて改めて思ったのが、ネットの時代になって文字で音楽を語ることの素晴らしさが忘れられている様な気がするんですね。それで、改めて雑誌を作らなければと思いました。1万字の原稿を読んでみると、文字で音楽を語る素晴らしさや楽しさみたいなものをすごく体験することができるので、是非それを提供していければと。

●文字でないとできないことをやっているわけですね。

高橋:今は特定の音楽シーンだったらブログを書いてる人の方がずっと詳しいんですよ。音楽評論家であっても、そういうブロガーの人たちには知識量も、聴いてる曲数も絶対かなわない。ただ、ネットで情報を探れば色んなことがわかりますけど、細分化したジャンルの、それぞれの関連性とか歴史的背景、いろんなことが全てからまってこうなった、ということまで語れる人はあまりいないんですね。ERISはそういう人達を書き手として集めている。内容が難解だったり、濃いなと思うかもしれないけど、読み物としての面白さを追及していて、それが読む人がもっと音楽を楽しめるようになるきっかけになればいいと思っているんです。音楽評論の世界には中村とうようさんが残したものもあるし、僕とか北中さんとか、ピーター・バラカンとか、ある程度年齢がいった世代の人間が、そういった広がりや関連性のわかるような読み物を書かなきゃいけないと思ってやっています。

●確かにユニークな存在です。

土田:例えば、ピーターが一般の雑誌で連載してても、例えば1500字だとすると頭の中に1万字の原稿があるのを1500字にするわけじゃないですか。でも本当にピーターの原稿を読みたい人はそのカットした部分こそ読みたいわけじゃないですか。だからそこをERISで書いてくれれば、読者と書き手の感性が一致する部分があって、満足感もあるんじゃないかなと。だって、普通の雑誌でポール・ジョーンズのインタビュー1万字、エルヴィン・ビショップのインタビュー1万字なんて通常ありえないですよね(笑)。

高橋:アルバート・リーのインタヴュー1万字とか(笑)。最初は「このピーターの連載はみんなついてくるかな?」とさすがに僕も思ったんですよ。ところが2号、3号それをやっていると、なんとも言えないその人だけの世界が出てくるんですよね。知らなくても実話が語られてるから、結構面白いんですよ。ピーター・バラカンの音楽性ってやっぱりこうなんだ、というのも分かるわけです(笑)。

土田:たとえば、ポール・ジョーンズを知らなくても読んでると、60年代のイギリスの音楽シーンをそこで体験できるんですよ。

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今までの音楽雑誌とは全く違うものを作りたい〜購読無料の音楽雑誌「ERIS」(5/5)

5.
●今、ピーターさんのインタビューの話がでて、書かれている内容の雰囲気がよく伝わってきました。他の執筆者の方のテーマなども教えてください。

高橋:北中さんは、日本の古い音楽を研究しているらしいという話を聞いて、例えば「古事記の中にこういう記述がある」とか。でも、そんなの研究したって誰も聴けないわけじゃないですか? それなのに研究してるんですね(笑)。もう、それはうちで連載してもらうしかないなと思いました(笑)。音楽の記事って、本来は音楽を聴かないと完結しないじゃないですか? 誰かのCD評を読んで面白そうだなと思って買って聴いて、みたいな。でも、誰も知らない、聞くことのできない日本の昔の音楽を探求する記事って、何かすごい、新しい音楽雑誌のベースになるような気がしたんですね。

土田:北中さんの中では、古事記から小山田圭吾まで繋がっているんですよ(笑)。

高橋:ただ、長年音楽業界にいる人ばかりじゃつまらないと思ったので、国分くんをハンティングしました。彼は初音ミクとか、ボーカロイドとかを過去の音楽史り照らし合わせつつ、研究しているんですね。そういう最前線の事を彼に書いてもらったら面白いなと思って。

●古事記から初音ミクまで、ですか(笑)。

高橋:古事記と初音ミクが両方入ってる雑誌です(笑)。でも、そうしたら中に何が入ってもいいじゃないですか(笑)?

●(笑)。

高橋:あと、藤川毅くんは元レゲエマガジンの編集長で、今は鹿児島に帰って会社をやっているんですけど、ジャマイカ音楽の研究をずっと続けていて、それはもう並ぶ人がいないレベルなんですよ。昔からちゃんとした本を書けと言ってるんだけど、でも、仕事をやりながらだからなかなか書けないみたいで、ならば、ここを使って書けと(笑)。彼のレゲエ研究は多分世界に出してもいいくらいのもので、本当にジャマイカの音楽に対して詳細にやっているので、それを世に出すためにここを使うべきだと思いました。で、安冨先生はさっき言ったように、マイケル・ジャクソン論を書いています。やっぱりマイケル・ジャクソンは一番人を集めますから、今の所一番の目玉ですね。

土田:安冨先生の原稿は、1号目で「JAM」という、その一曲で1万字書いてるんですよ。歌詞を引用したりしているのでJASRACに著作権使用料を支払っているんですが、契約に行ったときJASRACの人が「1曲で一万字の原稿なんて見たことがありません!」ってびっくりしてて(笑)。

●(笑)。湯川先生とも対談されてますよね?

高橋:湯川先生は、僕が世田谷に住んでた時に隣に住んでたんですね。その時はそれほどお付き合いはなかったんですけど、何年か前から色々話をするようになって。ERISのことも話したら、すごく応援して下さっています。あと、磯部涼くんは力のある若手のライターで、最近、クラブと風営法についての本を書いたりしています。日本のラップの歴史を研究していて、出版社からも何度も単行本を書いてほしいと言われていたそうなんですが、これまたきっかけがなかったようなので、ERISで書いてもらうことになりました。あと、成田佳洋くんは、NRTというインディーレーベルを運営していて、しょっちゅう現地まで行ってブラジルやアルゼンチンを研究しています。今までのブラジル音楽の専門家とはちょっと視点が違っていて、若い人の新しい視点というか、ラテン音楽の見方も違うので、それを書いてもらっています。

土田:一番エッセイっぽい感じがいいですね。湯川先生は、本当は創刊号から1万時の原稿をお願いしたいくらいだったんですが、安冨先生の原稿を気に入って下さったので是非対談をとお願いしました。

高橋:皆さんそれぞれ自分のスタイルで書いているんですけど、意外にそれが面白かったですね。

●8号目まではこの執筆陣でやっていく予定ですか?

高橋:途中で他の連載が入ってくるかもしれないですし、とりあえずもう1号くらいは、今のパターンで出したいですね。あんまりコンセプトを早くにいじるのはよくないから、1年目まではこのコンセプトでやって、2年目に入った時に、多少のテコ入れは必要になってくると思うので、一回ごとに巻頭記事くらいは考えようとしているんですけど。

●健太郎さんのYouTubeの話も相当面白いですよね。

高橋:そうですね…相当面白いと自負しているんですけど(笑)、あれも音楽雑誌では書けないんですよ。書けないと言うか、書いても紙なのでいちいち検索したりURLを打ち込んだりしなきゃいけない。でも電子書籍だったらワンクリックで映像を見ながら読み進められるし、YouTubeでしか聴けない音源も楽に取り上げられる。

●YouTubeであの動画を探すのはかなり大変だったんじゃないですか?

高橋:あれはこの原稿の為に探したんじゃないんですよ。去年、OTOTOYで「OTOTOY TV♭(フラット)」という音楽チャンネルを作ったんですね。YouTubeの映像をセレクトして順番に流す番組で、DJみたいなものですね。それのためにYouTubeの映像を集めて番組としてまとめる作業を半年くらいやっていたんですよ。そのとき何か特集しようと思って、見ていたら、いろいろ気がつき始めたんです。原稿書くためだけにあんなに探すのは無理です(笑)。

土田:こういう方たちの原稿って、生半可な知識や気持ちじゃ書けないものばかりですよね。そういう方たちの持たれてるものが埋もれてしまうのは、一音楽ファンとしてあり得ないと思っていたんですよ。こういう本を望んでる人たちもいるということを、今の音楽業界の人たちは認識してほしいなと思うんですよね。

●重いお言葉ですね。将来的には音楽ライターとか研究者達の虎の穴のような存在になるかもしれませんね。

土田:そんな長く続かないと思うんですけどね(笑)。ただ、音楽ファンを育てないと、という気持ちもどこかであります。音楽の楽しみ方を学べるものがあったほうが絶対にいいでしょうし、せっかくこんなにいい原稿がいっぱい集まっているので、音楽業界の方も含めて色んな人に読んでもらいたいですね。

●音楽業界の方にこそ、ぜひ読んでもらいたいと心から願っています。

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季刊で年4回発行予定
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編集人:高橋健太郎

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